オタク遺産   第一回 宇宙戦艦ヤマト
1974年10月放送開始作品
  宇宙戦艦ヤマト

 このタイトルに胸が熱くなる世代も多いでしょう。
一世を風靡した日本アニメ史に残る不滅の金字塔です。
ヤマト無くしては、近代のアニメ文化など無かったと言っても
良いぐらい重要な位置にあります。

 『宇宙戦艦ヤマト』の制作母体はオフィスアカデミー。
手塚治虫率いた旧虫プロ系の人間を多く取り入れた作品であり、
『機動戦士ガンダム』の冨野由悠季、安彦良和もスタッフとして
参加していました。
 ヤマトが他の作品と一線を画すのは、兎にも角にも
プロデューサー西崎義展のアクの強い牽引力があったためで
譜面が読める等アニメ制作以外にも精通した西崎義展抜きでは
『ヤマト』はなかったと断言できるのではないでしょうか。

 物語は2199年から始まります、
銀河の果てにある謎の星ガミラス帝国からの侵略を受けた
地球。
 星間の直接武力侵攻という設定は理不尽であると共に、
巨大な武力には武力を持って反撃するしかなかった
明治以降の近代日本のメタファー(比喩)であることに気づく人も
多かったかと思います。

 物語冒頭にして、強大なガミラス帝国の前に滅亡寸前の地球。
地球艦隊戦力を結集した会戦を試みるも惨敗。
 降伏を勧告するガミラスに、地球艦隊の司令沖田十三
「馬鹿め」
と返信します。

 この不撓不屈の登場人物は、監督でクレジットされ
重要回の絵コンテも担当している、漫画家松本零士の
描く人間像の真骨頂とも言うべきものでしょう。

 第1話ではそういったやりとりの交わされる中に
次の台詞が出てきます。

「明日のために今日の屈辱に耐える それが男だ」

 ここまで明快に、小学生にも理解できるかみ砕き方で
人生観を語った言葉は無く、
この説得力があるからこそスポーツ根性モノブーム残滓の
時代に、新しいムーブメントを巻き起こせたのだと思います。

 主人公古代進は、火星に墜落した宇宙船から異星人サーシャの
メッセージを受け取ります。
(サーシャはスターシャの妹、後のサーシャとは別人)

 そのメッセージにあるのは人類再生の糸口となる、放射能除去装置を
銀河の果てイスカンダルまで取りに来て欲しいという内容で、
 地球人類は、理不尽な攻撃と共に、もう一つの平和的種族とも
接触したことになります。

 その銀河を越える旅に選ばれたのがド級宇宙戦艦 ヤマト。

 巨艦と呼ばれた旧日本海軍の戦艦大和を基礎にイメージされて
いるものの、戦艦大和の乗組員は2500名であったのに対し、
宇宙戦艦ヤマトの乗員はわずか114名。(制作時資料から)
 だが、その精鋭114名と最新のメカニックを搭載し、
宇宙戦艦ヤマトは約束のない冒険的な航海を始めるのです。

 ヤマトの存在を察知したガミラス帝国は超巨大ミサイルを
ヤマトめがけて撃ち放つ。
 発進の遅れるヤマトだが着弾寸前についに発進、迫る来る
ミサイルを主砲一閃、撃破して宇宙へ旅立つ。

 だが、その時放射能汚染は限界に近づきつつあった

 人類滅亡まで あと363日

 かって、ここまで恐ろしいカウントダウンがあったでしょうか?
ここに、絶望的状況に挑む人間達を描いたSFドラマが
誕生したのです。

『宇宙戦艦ヤマト』の面白さはアイデアの積み重ねにあると言っても
いいでしょう。
 ストーリー面もさることながら、技法に長けた石黒昇の起用など
新しい映像への挑戦は常に続けられています。
 4話では空間航行「ワープ」のビジュアルが初めてTVに登場し
5話では超兵器「波動砲」の登場と、『宇宙戦艦ヤマト』から発信された
専門用語は、多くの人間の共有知識へと変化していったのです。

 全26話。
そのほぼ全てにハズレ無しと言っても過言ではありません。
 中盤、宿敵ドメル将軍との戦いは、互いに尊敬を見せつつも
死闘を繰り広げる、「戦いのドラマ」を濃縮したものと言えます。


 特に注目すべきは松本零士が絵コンテとしてクレジット
されている担当回。

第1話「SOS地球!! 蘇れ宇宙戦艦ヤマト」
第2話「号砲一発!!宇宙戦艦ヤマト始動!!」
第5話「浮遊大陸脱出!!危機を呼ぶ波動砲!!」
第7話「ヤマト沈没!!運命の要塞攻略戦!!」
第17話「突撃!バラノドン特攻隊」
第22話「決戦!!七色星団の攻防戦!!」
最終回「地球よ!!ヤマトは帰ってきた!!」

 このすべてにメカニックの描写を活かした戦闘が
描かれていて、大戦時兵器に精通した松本零士の
ディティール描写と空想の飛躍が見事に合致した珠玉の名品と
呼んで良い作品群となっています。

 『宇宙戦艦ヤマト』は今観ても面白いと自信を持って言えます。
それは、多くのスタッフのあり得ないぐらいの情熱を傾けられ
作られたフィルムだからであり、これでつまらないはずは
ありません。


 残念ながら後に「ヤマト」はトラブルと共に語られることになり、
西崎招集の新スタッフによるヤマトや、松本零士によるヤマトなど
複雑な道を歩むことになりました。

 ここに私見ではありますが
西崎義展という外側からの視点で作品を管理する人間と、
松本零士という内側から物語を作り出す人間の、
双方が揃って飛ぶ双発エンジンの飛行機が『宇宙戦艦ヤマト』で
あったと考えます。

 その片方が欠けても空は飛べるが、
かってのような力強い飛行はありません。



 『宇宙戦艦ヤマト』はもはや過去の遺物でしかないのか?

 いや、当時のファンはヤマトの帰還を待ち続けています。
再び威風堂々たるヤマトの勇姿が帰ってくることを強く待ちわびて
います。

 しかし、それはヒット作理論で成功を約束されたヤマトでは
無いのです。

 当時、何故ヤマトに熱中したのか?
それは戦後日本のリアリティに直撃したからではないでしょうか?
 明日のない世界にどう生きるのか?
が重要だったのではないかと思います。

 その後、続編として作られた、ただ悪でしかない宇宙帝国に
勝つべく生まれたヤマトと呼ばれるうちゅうせんかんに、
何の説得力があったでしょうか?

 子供から、
アニメファンから、
金銭を引きずり出す道具とされた時ヤマトは沈没しました。

 私も『宇宙戦艦ヤマト』の帰還を待っています。
まだ「ヤマト」を必要としているからです。

「まだヤマトがあるじゃないか!」

『さらば宇宙戦艦ヤマト』に出てきた台詞ですが
今をもってなお、ヤマトは「希望」というべきものなのです。


2005年 8月19日
文/葉山霄
校正協力/柴木倒
文中 敬称略


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